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DAYS JAPANフォトジャーナリストスクールの卒業生達が自らの視点で世相を斬ります


by photopanda
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環境変化~南太平洋ツバル~

南太平洋に浮かぶ小国ツバルは9つの環礁(円形に広がるサンゴ礁)島からなる。
人口は約10000人、世界で四番目に小さいこの国は、1989年の国連報告で地球温暖化の影響で21世紀中に海の中に消えてしまう国の一つとしてレポートされた、「地球温暖化に沈む国」だ。
この国が「沈む」と形容されるのは、「海岸浸食」や「内陸洪水」といった問題が国の中にはっきりと顕在、日常化し、人々の生活に影を落としているからだ。しかしこの国は各国メディアによって「沈む」という言葉を強調されすぎている。私を含めた訪問者のほとんどは「いつも海水が、ばしゃばしゃと土地の中に入り込み、まさに沈みかけているのだろう。」という危機的なイメージを持ってツバルを訪れる。断続的に海水がこの国に被害を及ぼすのは2、3月のキングタイドと呼ばれる時期に限り、それを除くほとんどの期間は海水の被害はなく、人々はいつもと変わらぬ幸せな生活を送ることができているという。
 
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     ※環礁内の海で遊ぶ子供たち。海は生活と密接に関わっている。写真はすべてツバル・フナフチ、フナフチ環礁内

しかし、だからと言って、「地球温暖化」や「海面上昇」による被害がないわけではない。
海岸浸食に関して言えば、首都フナフチのあるファガファーラ島の砂浜はわずかに残されているだけであり、さらには外洋に面した海岸もごつごつとした岩石が海岸線にずっと続いているという状況だ。
また、フナフチ環礁内にあるテプカ島(無人島の一つ)のヤシの木のほとんどは海の力によってなぎ倒され、それらのほとんどは海水に飲み込まれている。さらには、環礁内にあったテプカビリビリ島(無人島の一つ)も海面上昇によって今では海の中に姿を消し、引き潮時にのみ、その島の頭を見ることができるだけだ。地球温暖化や海面上昇によって引き起こされる環境問題がこの国にはっきりと刻まれているということは確かなのだ。

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※フナフチ環礁内にあるテプカ島のヤシの木が浸食によってなぎ倒されている、写真は干潮時に撮影したもの。








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※首都フナフチのあるこの島の砂浜は、ほとんどが浸食によって消えてしまった。数少ない砂浜で遊ぶ子供たち。








 
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      ※外洋側の海岸は浸食の影響によって、ごつごつした岩が海岸線沿いにずっと続いている。すぐ後ろには民家が立ち並ぶ。


私たちは、このツバルという国に対して、偏ったイメージを持ちすぎているのかもしれない。実際、ツバルの海岸浸食や内陸洪水はただ単に地球温暖化、海面上昇による「自然的要因」だけでなく、「人為的要因」「土地要因」も大きく関係しているということも事実であるという。

まず「人為的要因」として「海岸線沿いに建造物をつくる(船着き場など)」、「自分の土地拡大のために海に向かって礫をしく」といった、人間の一つ一つの行為によって、海の中の自然な砂の流れがストップし、その近くの海岸線に「激しい浸食」が引き起こされていること。
次に、「土地要因」として、第二次世界大戦中にアメリカ軍によって建設されたツバルの滑走路は、ファガファーラ島の北、南にある土地の土砂(サンゴ)を掘り起こし、それを利用して作られた。それによってできた大きなくぼみは「ボローピット(海の潮位と比例して海面が上がり下がりする”小さな黒い海”。とてつもない量のゴミが島のどのボローピットにも存在する)」と呼ばれ、島の北や南にあちこちに点在しているということ。
また、より良い生活を求めて離島から移動してきた島人たちが自然にこのボローピット周辺の低い土地に住むようになったということ。さらには、人々による生活排水が海洋汚染を引き起こし、ツバルの土地を形成している「有孔虫」にダメージを与えているということ(人口過密がさらなる拍車をかける)。
こういった島に存在する「土地の問題」が、結果的にツバルの内陸洪水さらには海岸浸食の遠因にもなっているようだ。

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※滑走路でバレーをする人々。このきれいに整備された滑走路の建設は、島の北、南にある土地の土砂を
利用して作られた。この場所は人々の遊び場の一つだ。


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※島に点在する「ボローピット」の脇道を通る子供。ここにある「水」は海水だが、ボローピット周辺に住む人々の生活排水やゴミによって「黒い海」に変わってしまった。ここで泳ぐ魚は一種類、それは豚の餌になるだけである。まるでどこかの発展途上国のようなごみごみとした風景が、南国ツバルに存在している。

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※ボローピット周辺には、驚くほどのゴミが散乱している。

ツバルは9つのサンゴ島からなる小さな島嶼国の一つである。首都フナフチのあるファガファーラ島を除いた、他の8つの島に住む島人たちは依然として自給自足を軸とした生活を送り、貨幣経済というものがほとんど浸透していない。一方でツバルの首都フナフチは急速なスピードで都市化が進んでいる。
そういった都会的な生活(貨幣経済)での生活にあこがれる離島の人々はフナフチを目指してやってくる。しかし彼らは貨幣をほとんど持っていないため、困難な生活を強いられることになる。彼らが首都フナフチで生き残る手段は一つ、「フナフチに住む離島の親戚(先にフナフチに移動した人々)の家を頼る」ことだ。ほとんどの離島からの移民者はボローピット(低地)に住みつく、というよりもこの環境で生活を強いられるといったほうが正しいかもしれない。なぜならそれは、もともとフナフチに住む島民の生活がこの島の中心にあり、今でもそれは続いているからだ。彼らは島の中心に、よその島から来た移民者は北か南のとてもいい環境とは言えない低地に住むのだ。

シリアッタ・ぺティ(18)の父は離島からの移民の一人だ。彼女の父(アピサイ・ぺティ)は北のボローピット周辺の外洋沿いに一軒の家を建てた。家族だけで住んでいたこの家に、彼らを頼って、離島から何人もの島人が家にやってきた。今では現在6家族、10人が、彼女のとても大きいとはいえない家に住む。そういった離島問題によって引き起こされる、「人口過密」もこの国の問題の一つだ。「人口過密」はゴミ問題、海洋汚染に拍車をかけるからだ。
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※家で庭用の花をつくる女性たち。シリアッタ・ぺティが住むこの家には、6家族10人が住んでいる。その全員が離島からはるばる首都フナフチにやってきた人々だ。







「この家にこれだけの人が住んでいることをあなたはどう思う、もちろん人がいっぱいいて楽しいけど、自分のスペースはほとんどなくなってしまったの。」と彼女は語った。ノーと言えないツバル人は、はるばる遠くからやってくる親戚を拒むことはできないようだ。

さらには彼女の家は海岸にとても近い。外洋近くに建てた家といっても、ボローピットと道路を挟んだすぐそこには環礁内の海が存在する。それだけ国土も狭いのだ。


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   ※家のすぐ外には外洋が広がる。


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   ※シリアッタ・ぺティと彼の父アピサイ・ぺティの墓。この写真を撮影した前日にこの墓が立てられた。

「もちろん海は怖い、そして海面上昇がそれに拍車をかけている。時には津波も襲ってくる。でもそれに対して一体何ができるの?」と彼女は私に対して問いを投げかけてきた。彼女に会う数日前、彼女の父が52歳の若さで病に倒れた。父を思う彼女は「父の建てたこの家で、この場所で、家族と一緒に生活する、永遠にね。」と力強く私に語った。環境問題に揺れるこのツバルという国で、その彼女の思いや一つ一つの言葉は現実として叶うのだろうか。


主観的な意見を言えば、私は当分はツバルという国が「沈む」とは思わない、しかし「沈まない」からと言って、地球温暖化や気候変動などといった地球規模の問題から逃れることができるわけではない。この大きな環境変化の中でいつもそれと隣り合わせの生活をしている人々がいるという現状。さらには「離島問題」「人口過密」「ゴミ問題」などの問題がこの小さな南太平洋の島に内在し、一つ一つが連鎖となって大きな社会問題、島の環境問題に関係しているという現実。そこから私たちは目をそむけずに、問題の本質を見抜く必要があるのではないだろうか。


梅本健太
KEN UMEMOTO
by photopanda | 2010-07-17 23:05 | ツバル